「善き人のためのソナタ」(ドイツ 2006年)

盗聴器を通して知る自由、愛、音楽、文学。
それは自分自身を変えてしまうこと。
予想もしない人生に目覚めること。
善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]
ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック
アルバトロス 2007-08-03
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 去年リーフレットを手にした時、
 直感的に観たいと思った映画です。
 第79回アカデミー外国語映画賞受賞作であり
 シアターキノ15周年記念作品第1弾でもあります。
 3月24日シアターキノにて。

1984年11月、東西冷戦下の東ベルリン。
シュタージ(国家保安省)の局員ヴィースラーは、
劇作家のドライマンと恋人で舞台女優のクリスタが
反体制的であるという証拠をつかむよう命じられる。
ヴィースラーは盗聴器を通して彼らの監視を始めるが、
彼らが話す自由、愛、音楽、文学に影響を受け、
いつの間にか新しい人生に目覚めていく・・・。


自分が監視されていたと知ったらどうなるでしょう。
監視され盗聴された資料がワゴンで山積みで出てきたら・・・。

一応秘密警察の存在は知っています。
ナチスドイツのゲシュタポ、旧ソ連のKGB、
ルーマニアのセクリタテアetc.
旧東ドイツではシュタージがその役目を担っていました。
監視され盗聴され自宅の鍵は用をなさず、
プライバシーも人権も全くない、
不眠不休の48時間の尋問に10ヶ月の拘束。
・・・当たり前のような会話はかなりショックでした。

ドライマンとクリスタを監視する側のヴィースラー。
ふたりの生活や考え方に触れていくたびに
また権力者におもねる上司を見るたびに
国家・体制に忠実なヴィースラーの理想が揺らいでいく。

原題は「Das Leben der Anderen」
英タイトル「The Lives of Others」。
あちら側・・・他人の人生と訳するのでしょうか。
(シュタージには「反体制分子の連中の生活」というのが
正しいのかもしれませんが。)
邦題はドライマンの友人で演出家イェルスカが残した楽譜
「善き人のためのソナタ」から来ています。
劇中の台詞でもレーニンの言葉として
「ベートーヴェンのピアノソナタ『熱情』を本気で聴いてしまうと
悪人にはなれない」として紹介されています。
盗聴器越しにドライマンが奏でるピアノに涙を流すヴィースラー。
でも職務に忠実な冷酷に任務を遂行する海千山千の彼が
歪曲した報告書を上げるようにまで変わってしまう、
その過程はさらっとしか描かれませんでした。
・・・ヴィースラー自身が舞台でのクリスタに
惹かれた部分があったにしても。

全ては権力者の大臣がクリスタの美しさに目をつけたから。
女優としての自分の仕事の成功や生活の安定のために
権力者に身を任せるしかないクリスタ。
正体を隠して近づいたヴィースラーに励まされ、
彼女は脅しを撥ね付ける。
でもそのことが権力者の嫉妬を呼び逆鱗に触れ、
逮捕・尋問の末にドライマンを裏切るしかなくなってしまう。
後ろめたさを抱えたクリスタの背中を押したのは
愛する人が自分に向けた怒りの瞳・・・。

東ドイツ崩壊後、反体制分子とされた人々の個人情報記録は
本人に限り閲覧ができるようになったそうです。
家族や親友がシュタージの協力者だったという事実を知り、
人間不信に陥ったり精神のバランスを崩してしまう例も
多かったようです。
ちなみにヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエも
女優である妻に自らの行動を密告され続けていたそうです。

ヴィースラーに訪れた「Das Leben der Anderen」
「The Lives of Others」・・・「もう一つ別の人生」。

『HGW XX/7へ捧げる』
B00005JPO8.jpgThe Lives of Others
Martina Gedeck, Ulrich Mühe, Sebastian Koch, Ulrich Tukur, Thomas Thieme

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B000GNOOQ2.jpgThe Lives of Others (Region 2)[2007]
Martina Gedeck, Ulrich Mühe, Sebastian Koch, Ulrich Tukur, Thomas Thieme, See more

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B000EHRXR2.jpgThe Lives of Others
Original Soundtrack
Varese Sarabande 2007-04-16
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コメント

良い映画でした。sannkenekoさんの選択眼は、確かですね! ウルリッヒ・ミューエが、自分と同年齢なんですよ。(複雑な気持ち)
この映画を観ていたら、今の日本に生きていたことを感謝したくなりました。(現実は、どうかわかりませんが…) 権力の座についた人間は、およそ「不安」で、対抗するものにおびえるのでしょうか? 「力の行使」は、人間の「不安」から生じているような気もしました。

あかん隊さん、
お褒め頂いて嬉しいです(=^u^=)
「力の行使」は、人間の「不安」から生じているような気もしました。
「欲」と言うのもあると思います。
金銭・出世・社会的地位・・・。
こういう部分では日本人で生まれたことにお礼を言いたくなります。 

こちらにも。
観終わった後に自分なりの感想をまとめようとしてみると、
一番共感しやすいのはクリスタなのに(クレジットも一番最初ですよね。)
映画を観ている最中は終始ヴィースラー視線だった。
というところにこの映画って上手いなぁと思いました。
徹底して無機質な街並みと、
静かに、だけれど徐々に揺らぎ始めるヴィースラーの心の対比が上手かった。
うーん、主義や思想って結局難しい。
組織の一員が人間として動き始めた途端、
主義の徹底は難しくなってしまうものなのでしょうかね。
話が反れますが、気になったのが情報開示。
(今個人情報保護が取りざたされることが多いからかも。)
局員の名前を調べることが出来てしまったら、
局員の生活の保障ってないんじゃないかなぁとか思ってしまいました。
親しいものの裏切りを知って、
今でも癒えることのない傷を背負って生きている人々がいることを思うと、
辛いですよね。

コーラさん、
裕福ながら愛が欠けていたヴィースラーが見たクリスタとドライマン。
そしてヴィースラーの視線で見た体制であり権力者。
>組織の一員が人間として動き始めた途端、
 主義の徹底は難しくなってしまうものなのでしょうかね。
教育の怖さなのでしょうが、
一種のマインドコントロールですね。
それが解けることは命を懸けることになり、
人生を棒に振ることになる。
情報開示は違う意味で怖かったですね。
監視者の名前も立場も住所も全部っていうのもちょっと・・・。
知らない方がいいこともあるような気がします。
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