「夕凪の街 桜の国」(日本 2007年)

昭和20年(1945年)年8月6日、
広島市は人類史上最初の原子爆弾の投下を受けました。
『何度夕凪が終わっても
このお話はまだ終わりません。』
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田中麗奈 藤村志保 伊崎充則
東北新社 2008-03-28
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 私が"原爆"というものを知ったのは『ふたりのイーダ』でした。
 でも「イナイ、イナイ・・・ドコニモ・・・イナイ・・・」。
 そう言いながら歩き回るイスが気味悪かったし、
 イスが壊れた時にはとにかく怖かった。
 あとりつ子の白地に紺だったか紺地に白だったかの蝶の柄の浴衣に
 憧れたくらい・・・。
 中学生くらいに読み直した時に遅ればせながら
 何が書いてあるのかがようやく飲み込めました。
 帰ってこないお祖父さんと小さな女主人イーダを
 家でひとり待ち続けたイスが哀れで可哀想で仕方なかった。
 そして本当のイーダが背負ってしまった過酷さも。
 カレンダーの日付紀元2605年8月6日という日が
 イーダにとってどれほどの重さがあるのかも。
 ・・・「夕凪の街 桜の国」8月12日ユナイテッド・シネマ札幌にて。

【夕凪の街】
原爆投下から13年後の昭和33(1958)年復興が進む広島。
平野皆実は母フジミと貧しくも平穏に暮らしている。
弟・旭は戦時中に水戸に疎開しそのままおば夫婦の養子になっていた。
ある日、皆実は会社の同僚・打越から愛を告白されるが
原爆で原爆で父と妹を失い生き残った罪悪感を感じる皆実は・・・。

【桜の国】
平成19年夏の東京。
定年退職した皆実の弟・旭は家族に内緒で広島の旅に出る。
そんな父を心配する娘の七波は、
父の再婚の様子を心配し後を付けていく。
偶然再会した友人の利根東子と共に広島へ向かう・・・。


皆実が打越に胸の内をぶつける場面で大泣きしてしまいました。
「うちが忘れてしもうたら済むことかもしれんけど・・・。」
今まで一緒だったクラスメートや先生が、
学校が街が風景が全て一瞬で・・・。
幼い翠を葬り父の死を見届けてしまった少女が
成長した今も抱え続ける痛みと苦しみ。
「うちはこの世におってもええんかね?」
こんな哀しい言葉があるでしょうか・・・。

そして現在。
皆実の弟・旭の娘・七波(皆実とはおば姪の関係)。
東子が咳き込んだくらいでどうしてあんなにうろたえるのかと思ったら、
忘れられない思い出があったこと。
母と祖母を失った桜の街の陽だまりの匂いがする東子とは
会いたくなかったこと。

現代(桜の国)と過去(夕凪の街)はどこまでも対照的に描かれます。
(東子にある決意があったとはいえ)思い立ったら
簡単に広島に行ける豊かな時代に生きる七波と東子。
母と水戸にいる弟に会いに行くために
草履を作るために竹の皮を集めつましい生活を送る皆実。

若く健康な七波と東子がバスタブで楽しそうに歌っている。
銭湯で左の二の腕のケロイドに手をやる皆実。
それぞれ身体にケロイドが残る女たちが
その話題には一切触れず何事もなかったようにしていることに
不自然さを覚える皆実。
(ところで子どもたちは一緒ではありませんでした。
時間が遅いせいもあるでしょうがお母さんに残る原爆の跡は
子どもたちを怯えさせそれがまた母親を悲しませたかもしれません。)

入院している七波の弟・凪生と、
皆実の背中で息絶えた翠。
倒れた皆実になすすべもない打越と旭。

そして結婚を反対される子どもたち。
フジミはもう家族が原爆で死ぬのは見たくないからと。
東子の両親は被爆の家系を理由に凪生との交際に反対し・・・。

原作は未読ですのでこの映画を観ての印象なのですが、
七波の内面の変化がどうも掴みづらい。
広島での七波は最後まで父の傍観者でした。
皆実やフジミが生き残った罪悪感に苦しんだように、
疎開したことで原爆の難を逃れた旭もまた苦しんだと思います。
皆実の予想通り額が広くなった(笑)打越と再会した父に
七波が声をかけて皆実の話を聞いたというなら、
過去のシーンを七波が優しく見つめているのも自然に映るのですが。

父を追っての広島行きで七波が母と祖母の死に折り合いを付け
被爆に向き合っていくのが桜の国の大きな柱。
"喘息が被爆のせいかわからないけれども今は元気なこと。
姉は今も昔も元気だ"と。
凪生が東子に宛てた別れの手紙への悲鳴のような言葉。
被爆という現実に真正面から向き合っていたのは
七波の弟の凪生が先でした。
母からも祖母からも原爆の話は聞いたことがないし、
ふたりの死は原爆のせいだとは誰にも言われなかった七波。
でももし石川一家が広島に住んでいたらどうだったでしょう・・・

言うまでもないことですがこの国は世界で唯一の核被爆国です。
広島でも長崎でも小さなイーダやりつ子の養父母や、
皆実や母の胎内で被爆した京花のような悲劇は
数え切れないほどあったのでしょう。
"しょうがない"なんてことは絶対にない。
原爆症に倒れた皆実のモノローグは戦争の愚かさを伝えます。

「忘れんといてな、うちらのこと。」
「夕凪の街 桜の国」オリジナル・サウンドトラック「夕凪の街 桜の国」オリジナル・サウンドトラック
村松崇継
テイチクエンタテインメント 2007-07-11
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夕凪の街桜の国夕凪の街桜の国
こうの 史代
双葉社 2004-10
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小説 夕凪の街桜の国小説 夕凪の街桜の国
国井 桂 こうの 史代
双葉社 2007-07
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ふたりのイーダ (児童文学創作シリーズ)ふたりのイーダ (児童文学創作シリーズ)
松谷 みよ子
講談社 2006-07
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コメント

こんばんは。
TBありがとうございました。
こちらからTBが送れないのでコメントのみで失礼します。
私はあまり普段映画で泣かないのですが、この映画は自然と涙がこぼれてきました。多くの人に観てもらいたいですね。

masakoさん、
回線が混んでいたのかもしれませんね。
ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
髪止めがつなぐ女性たちの物語でもありました。
皆実の、フジミの、京花の想い・・・。
特に麻生久美子が素晴らしかったです。

sannkenekoさん、こんにちは♪
トラックバック&コメントありがとうございます。(*^-^*
>ところで子どもたちは一緒ではありませんでした。
時間が遅いせいもあるでしょうがお母さんに残る原爆の跡は
子どもたちを怯えさせそれがまた母親を悲しませたかもしれません
そう言えば、銭湯の場面は子供が居なかったですね。
母親のそういう思いがあったのかもしれませんね。

BCさん、
静かなんですが心に響いてくる作品でしたね。
>そう言えば、銭湯の場面は子供が居なかったですね。
みんなが身体にケロイドがある・・・。
同性としてはなんとも悲しいシーンでした。
七波の記憶にあった帰宅したらお母さんが血を吐いて倒れていた、
おばあちゃんが自分を"知らない子の友達"と間違えた・・・。
同じように子どもは本能的に怯えて泣き出してしまうのではないでしょうか。
七波が無意識にせよ忘れようとしたのは当然かもしれませんね。
桜の国編は東子か旭の視線で七波を見る形にした方が
映画としては良かったような気がして
何とももったいないように思います。
Secret

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