『かれん』

愛する者を失う傷を負った者たちの想い。
そして誰かの身代わりを生きるということ。
安達千夏著『かれん』
かれんかれん
安達 千夏
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-26
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北海道新聞の書評での作者の紹介記事で
興味を持った小説本です。⇒ほん@doshin

フリーアナウンサーの稲葉雪乃に舞い込んだ奇妙な仕事の依頼主は
地図製作会社の社長・葛木晋一郎。
現在死の床にある葛木の義父は記憶が3年前に遡っている。
視力も衰えているその義父のために亡くなった娘・千勢、
葛木にとっては亡き妻の身代わりを演じて欲しいと言う。
神田川を挟んで此岸と彼岸を行き来する、
そんな雪乃の生活が始まった。


私の声は母と似ているらしい・・・特に電話の声は。
母の友人知人が私を母と思い込んで喋り出すのは良くあること。
イエ電にかけてきた伯母(母にとっては義姉)が
例に依って話し出したのでこちらも悪戯心で母のフリをしていたのですが、
・・・当然ボロが出てくるのです。
知らない人や話題が致命的なのは言うまでもありませんし、
四六時中母の言葉に耳をそばだてているわけでもないのですが、
相槌の間合いひとつも微妙に違っていたりする。
ましてやそれが面識も無い女性の身代わり。
例え声がどんなに似ていても、
例え信三の目がかなり不自由になっていても、
入れ替わることなどハナから無理な話。
いつからかは判りませんが信三は気付いていたと思います。

タイトルの"かれん"。
ひとつは雪乃は父の再婚相手の連れ子の姉・カレン。
もうひとつは北回帰線上の台湾の町・花蓮(ホワリエン)。

ところで千勢が夏至の日の北回帰線に執着するのが
途中まで腑に落ちなかったのですが・・・影なのですね。
影は自分の分身、転じて身代わり。
父は娘ではなく姉の身代わりとしての千勢を、
千勢の影を愛しているのではないかという疑念。
だから影のない夏至の北回帰線に立ちたい。
影ではなく私を愛して欲しい。
そんな千勢の思いを誰よりも知る五十嵐は
千勢が憧れた花蓮に拘わり続ける。
雪乃はカレンとの最後の日となった別れの朝を悔やみ続ける。
家族を亡くしたそれからの家族の想い。
もしあの時・・・どうしようもないと理性では判っていても。
愛する人を突然にそして永遠に奪われてしまった。
そして葛木義父子と五十嵐もまた・・・。

千勢を巡る男たちが雪乃を通じて千勢に会う時。
千勢ではなく雪乃に心を開いていく時。
そして雪乃自身もまた・・・。

悔やむことが悼むことに変っていく時。

「あなたのせいじゃないのよ
あなたはちっともわるくない」

「わたしたちは、わたしたちの生を生きるんです」
モルヒネ (祥伝社文庫)モルヒネ (祥伝社文庫)
安達 千夏
祥伝社 2006-07
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