『小暮写眞館』

人は語りたがる。秘密を。重荷を。
宮部みゆき著『小暮写眞館』
小暮写眞館 (100周年書き下ろし)小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
宮部 みゆき
講談社 2010-05-14
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まず700ページ以上というボリュームに驚きましたが、
読み応えがある一冊でした。

花菱英一は都立三雲高校の一年生。
英一は友だちからだけではなく両親や小学生の弟・光からも
"花ちゃん"と呼ばれている。
サラリーマンの父・秀夫は念願のマイホームとして、
築三十三年、寂れた商店街の真ん中の店舗付き住宅を購入した。
『小暮写眞館』と刻まれた銅の店名のプレートも
写真が飾られていたショーウインドウもそのまま残して。


花菱英一・通称"花ちゃん"のモノローグ的な書き方に戸惑い、
その"花ちゃん"の一人称での文体に面食らい・・・と、
ちょっと手こずったのは序盤だけ。
宮部ワールドに入ると一気に読めました。。
『第1話 小暮写眞館』『第2話 世界の縁側』
『第3話 カモメの名前』『第4話 鉄路の春』の四部構成のこの物語は
花ちゃんと花ちゃんの親友で歯医者の息子の"テンコ"、
花ちゃんの8才下、小学校低学年の可愛く聡明な弟"ピカ"こと光、
甘味処のひとり娘・"コゲパン"、
弁護士を父に持つ"橋口"らの成長物語。

英一の下に持ち込まれる心霊写真(?)に写るのは
茶の間でくつろぐ笑顔の人々の写真に
ひとり離れてピンボケに写る女性の泣き顔。
食卓を囲む家族の後ろに写り込む同じ親子の陰鬱な表情。
フリースクールに通う小学生の女の子の誕生会で
子どもたちの頭の上に浮かぶカモメのぬいぐるみ。
愛する人の心が離れ、家族の和に入れないどころか弾き出され、
挙句に死に別れた寂しさや苦しさだったり、
言い出せないままファインダーを覗く撮り手の想いだったり、
両親へ向けた小学生の精一杯の抗議と願いだったりする。
そんな謎解きと並行して語られるのは
小暮写眞館の店主だった故小暮泰治郎と。
英一の妹で光の姉、四歳で亡くなった風子。
ふたりの死者と遺族の思い。
特に花菱家の人々は幼い娘を妹を姉を亡くした痛みを抱え、
それぞれに自分を責めている。

ST不動産社長が結構重要なキャラだったり、
通りすがりと思っていた人物が突如姿を現し、
また会話の中に登場したりと油断ならない(苦笑)。
今の高校生って意外と(失礼)健全なのねと思いながらも
"ピカ"を自分の弟のように心配する花ちゃんの仲間たち。
義理や人情という言葉はこの世代でも変わらないらしい。

その中で明らかに異質な存在の"ミス垣本"こと垣本順子。
彼女は花ちゃんたちのように高校生活を謳歌出来なかった。
(二つの意味で)自分の身を守るために逃げた少女。
文化祭は彼女にとってどんなに眩しく見えたのかしら。

"リ・ウォン"は彼女自身。
そして生まれ変わるための彼女の再出発。
彼女はインスタントカメラを現像するでしょうか。
それともそのまま持ち続けていくのでしょうか。

ちょっとほろ苦いのに何故か爽やかな読後感の一冊。

「兵隊と非戦闘員じゃ、絶対に違うところがあるじゃないか。
非戦闘員なら、誰も殺さなくて済む。」
「あるとき、ある場所で、ある人に
自分にとってとても大切なことを知ってもらいたいと思う。
どうしても知ってもらいたいと思う。
けどね、それを知ってもらったらもうそれまでのような距離ではいられない、
ということがあるんだよ。」

コメント

TBありがとうございました。
お返しさせていただきましたが、うまく入らないようなので、ホームページアドレスに残しておきます。
花ちゃんを始め、周りの人たちの成長物語として読み応えがありましたね。
あのカメラで撮った長い写真、見てみたいと思いました。

花さん、
ちょうど重たい時間帯だったのかもしれませんね。
お手数をおかけしましたm(_ _)m
>花ちゃんを始め、周りの人たちの成長物語として読み応えがありましたね。
花菱一家だけではなく、さまざまな形で関わった人たちの
成長物語でした。
ちょっと長いですが引き込まれてしまうのは
さすがに宮部さんですね。
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