『火車』

彼女は何故姿を消したのか。
彼女は一体何者なのか。
宮部みゆき著『火車』
火車 (新潮文庫)火車 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社
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今月放送のドラマが物足りない出来に思えたもので
原作を改めて読み直しました。

刑事・本間俊介は、犯人確保時に負った傷のために休職中。
その本間を亡くなった妻方の親戚の栗坂和也が訪ねて来る。
失踪した和也の婚約者・関根彰子を探し出して欲しいという。
和也の話によれば、彰子にクレジットカード作成を薦めたところ、
審査の段階で彼女が自己破産経験者だということが判明した。
事の真偽を問い詰められた彰子は翌日には
アパートからも職場からも姿を消していたという。
休職中で手元に警察手帳がない本間は、
彰子の親戚や雑誌記者を装い捜査を開始する。
はじめに彰子の勤め先を訪ねた本間は
社長から見せられた履歴書の写真を見て彼女の美貌に驚く。
美しいながら、夜の仕事には染まらない清楚な雰囲気が漂っていた。
ところが履歴書に描かれた会社名は実在しないものばかり。
彰子の手がかりを求めて本間は
5年前彼女の自己破産手続きに関わった溝口弁護士を訪ね・・・。

現在とは特に個人情報に対して法律がかなり変わっているので、
父親の借金に付きまとわれる新城喬子のような悲劇は
文字通り小説の中だけなのかもしれません。

破産の申し立ては行方不明に父本人しか出来ない。
喬子がどれだけ取り立て屋に悩まされてもどうすることも出来ない。
でももし父親の死亡が確認できたならば・・・。
必死にそれを念じて調べていると愛する人が背を向けてしまう・・・。

生きている幽霊・・・棄民が人として暮らしていくには
借金をした父の失踪宣告が降りるまでの7年の月日を
取り立て屋に怯え息を潜めて生きるしかないのか。

本間の妻を死なせてしまった運転手は加害者であり被害者。
関根彰子や木村こずえの姉にしたことは
法的にも人としても許されることではないけれど、
でも喬子もまた被害者なのだと思う。
・・・私は新城喬子を責められない、責め切れない。

この小説が発表されて随分経ちますが、
今の学校ではクレジット社会に乗り出すための基礎知識を
教えているのでしょうか。
関根彰子のような落とし穴に落ちないために。
新城家のように一家離散にならないために。

本間・妻と碇、関根彰子と本多保。
二組の幼馴染み。
血が繋がらない家族の本間と息子。
血が繋がっている新城家と関根母子。
ボケの行方を探す子どもたちと
本間以外に探す人がいない彰子と喬子。
カード破産に住宅ローン苦。
あちこちで対比させながら進めていくこの構成は
巧みだと改めて思います。

それにしても読後感のこのやりきれなさは
何度読み返しても変わらない。

「先生、どうしてこんなに借金をつくることになったのか、
あたしにもよくわかんないのよね。
あたし、ただ、幸せになりたかっただけなんだけど。」
「この家は、それまで見たなかで一番のお気に入りだと言っていました。
遊びにきた時に、見せてくれたんです。
薫さん、わたし、人生を立てなおして、
いつかきっとこういう家に暮らすようになってみせるからねって。」
英文版 火車 - All She Was Worth英文版 火車 - All She Was Worth
宮部 みゆき アルフレッド・バーンバウム
講談社インターナショナル
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