「わたしを離さないで」(イギリス/アメリカ 2010年)

魂と猶予。
死と終了。
わたしを離さないで [DVD]わたしを離さないで [DVD]
キャリー・マリガン キーラ・ナイトレイ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
by G-Tools



作品名は覚えていないのですが、
とにかくあまり好きな文章じゃないわぁ・・・とリタイアしたのが数年前。
それからカズオ・イシグロは一切読んだことがありません。
北海道では2011年 3月にシアターキノで上映していた作品です。
DVDにて。

提供者と呼ばれる人々の世話をする介護人をしているキャシー。
手術台にいる大切な人・トミーと見つめ合いながら
キャシーはトミーと一緒に育った頃に思いを馳せる。
緑豊かな自然に囲まれた寄宿学校・ヘールシャム。
キャシー、ルース、トミーら子どもたちは
外界と完全に隔絶していたヘールシャムで、
"保護官"と呼ばれる先生の元で絵や詩の創作に励んでいた。
しかし面会に来る家族もいなければ帰る家もない子どもたちは
一方で徹底的に健康のチェックが行われていた。。

18歳になったキャシー、ルース、トミーは
コテージと呼ばれる校外の農場で共同生活を始め、
彼らは生まれて初めて社会の空気に触れ、
ルースとトミーは恋を育んでいく。


1978年とクレジットが出ますが、
人類の寿命は現代よりも延びている設定。
舞台は私たちが生きている世界とは違う世界ですが、
懐かしさを感じる自然豊かな風景、
教師も生徒のファッションもどこかクラシック。

原作未読、カズオ・イシグロの世界観も全く知らないので
ファンの方には見当違いの感想なのかもしれませんが、
私が感じたのは『悪意』と『エゴ』。

子どもたちの運命が明かされた時、
極端な話、眠らせたまま病院のベッドに繋いでおけばいいのに、
何故手間隙かけて教育するのか?と思いました。
校長がルーシー先生の退職を告げた時、
朗々と宣言した校長の言葉に拍手する子どもたち。
反抗することも抵抗することも知らない従順な子どもたちは
成長してコテージで暮らし始めてからも
外出から戻ればタイムカードよろしく機械に左手を翳す。
管理されることが当たり前の彼ら。

カフェで彼らが周囲の視線を集めていました。
案外、人々には彼らが何者なのか一目で判るのかもしれない。
そして子どもたちと同じように、
レシピエント(やその家族になるかもしれない)側もまた、
そういう教育を受けているのだと思います。

キャシーとトミーに『猶予』の話をしたルース。
でも介護人として何人もの介護をし、見送ってきたキャシーは
『猶予』などないことを知っていたのだと思います。
ただ、それをふたりへの贖罪と餞(希望)としているルースに対して
否定できなかった。
何より彼女自身、残り少ないトミーとの日々を送るために、
『猶予』に縋りたかったのだと・・・万が一でも。

・・・今年は喘息が悪化して一晩中眠れない夜が続きました。
咳き込みながら朝になる。
眠ろうと横になるとまた発作。
抗アレルギー剤も吸入剤も効かないまま朝が来る。
許されるなら気管支を交換したいと思うほど。
そして校長の言葉だと思いますが、
病気の痛みや苦しみから逃れるために、
人々は彼らの存在を肯定する。
自分が、家族が、愛する人が病気や怪我で苦しむ時、
移植しか治療(延命)の手段がない時、
ドナーを待っていたら何時になるか判らない。
でも彼らなら・・・。
ドナーになって頂いた方に抱く負い目や申し訳なさも
彼らになら・・・。

ルースの体内から臓器が取り出され彼女の命が尽きる。
手術道具を仕舞う手。
レントゲン写真を外す手。
バタバタと手術室を片付けるスタッフたち。
でも開いたままのルースの目を閉じる手はない。
白い布をかける手はない。
彼女の『終了』のシーンが一番印象に残りました。

ただ臓器提供後のドナー自身に身体を回復させ
そしてまたメスを入れる。
そして彼ら側の人間にドナーの介護をさせるシステム。
・・・人はどこまで冷酷になれるのでしょうか。

「この学校の生徒は特別なのです。」
レイチェル・ポートマン/オリジナル・サウンドトラック 『わたしを離さないで』オリジナル・サウンドトラック 『わたしを離さないで』
サントラ レイチェル・ポートマン
ジェネオン・ユニバーサル
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コメント

こんばんは。
すっかりお邪魔が遅くなってごめんなさい。
カズオ・イシグロの文体、作品の構造、テーマなど、彼の小説がとても好きなのですが、
この作品が映画化されると知った時、おそらくはっきりと賛否が分かれるだろうことを予想はしていました。
これは特異な設定であり、面倒なほどの構造になっていながら、実は普遍的なテーマを特別ではない我々に問いかけてくる作品だと思っていますが、
それもこれも、最初の設定を一旦受け入れてからのこと。
sannkenekoさんのような反応があっても、強ち的外れとは言えないのだろうと思います。
ただ、どうかこれで彼の作品を嫌いにならないでいただきたい、と思うばかりです。

悠雅さん、
本文にも書きましたが原作を読んでいない私は、
良くも悪くもカズオ・イシグロの世界観を全く知らないので、
あくまでも映像の感想です。
>これは特異な設定であり、面倒なほどの構造になっていながら、実は普遍的なテーマを特別ではない我々に問いかけてくる作品だと思っていますが、
ラブストーリーと呼ぶにはちょっと躊躇ってしま部分があります。
家族もない、外界との繋がりもない彼らには
同じ境遇の仲間たちにしか心を開けないのではないかと。
ヘールシャム、コテージ、そして再会後と
キャシー、ルース、トミーの関係や心情が丁寧に描写されていますが、
そうすればするほどこういう形でこの世に生を受けてしまった彼らの悲劇と、
そういうシステムを作り上げ、
また恩恵を受ける側の冷酷さが印象に残ります。
>ただ、どうかこれで彼の作品を嫌いにならないでいただきたい、と思うばかりです。
これも本文に書きましたがたまたま手に取った作品の文章が、
好きでなかったので読み進められなかったのです。
ただ文章は翻訳者にもよりますので機会があれば・・・。
Secret

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