『震える岩 霊験お初捕物控』

田村家下屋敷の夜泣き石。
死者の魂。
鎖かたびら。
宮部みゆき著『震える岩』
震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
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私が生まれて初めて読んだ時代小説。
何年ぶりかの再々々々・・・読。

元禄十四(1701)年三月。
赤穂藩主浅野内匠頭長矩が、高家筆頭の吉良上野介義央に
江戸城松の廊下で刃傷に及んだ。
享和二(1802)年の七月のはじめ。
南町奉行根岸肥前守鎮守の役宅を訪れ、
この六月に深川・三間町の長屋で起こった死人憑きの騒ぎの話をする
若い娘の姿があった。
娘は通町の岡っ引き・六蔵の妹であり、
一膳飯屋「姉妹屋」の看板娘・お初。
奉行はお初に与力見習いの若侍・古沢右京之介を引き合わせる。


当時(も今も)時代小説に馴染みも何もないもので、
根岸鎮守が実在の人物なら、『耳袋』が現存することも露知らず。
『奇石鳴動の事』も本書の冒頭にある短文をモチーフにして
書かれたのがこの小説だそうです。
第一章『死人憑き』、第二章『油樽』、第三章『鳴動する岩』、
第四章『義挙の裏側』、第五章『百年目の仇討始末』からなる本書。
主人公・お初は『かまいたち』に登場しているそうで、
・・・是非機会を見て読みたいと思います。

悲しみや恐怖、怒りや絶望・・・心の負の部分が見えてしまうお初。
根岸肥前守鎮守から様々な話を聞き、知恵を授けていただいてきたから、
身体の内側にある不可思議な力と、仲良く付き合い、
乗りこなすことが出来るようになった。
『龍は眠る』の慎司と大叔母の関係と同じような設定です。
そのお初にしか見えなかった吉次の顔、油樽の中。
そして浅野内匠頭が腹を切った陸奥一関藩田村家の江戸下屋敷で、
腹を切ったその場所に印として置かれている石が伝えること。

100年前、第五代将軍徳川綱吉の時代。
生類哀れみの令と忠臣蔵の元となった出来事。
歌舞伎では浅野内匠頭に当たる芝居中の人物・塩谷判官の妻に、
吉良上野介に当たる高師直が横恋慕してはね付けたから。
そして賄賂(とこの小説には出てきませんが塩の話)が有名ですが、
肝心の殿中で刃傷に及んだ原因は歴史史料にないことに注目し、
浅野内匠頭が乱心したという立場を取っています。
(もっとも昨年末に放送された「世紀のワイドショー!ザ・今夜はヒストリー」に依ると、
現在ではこの乱心説が一番有力なようで、
浅野の親戚筋でも以前(ここまで大掛かりではないようですが)、
同じような騒ぎが起こっていたらしいです。)
浅野内匠頭の乱心ならば元々仇討ちなどなかった。
旧浅野の家臣は命を捨てる必要などなかった。
吉良もまた然り・・・。

それでも切腹をたまわることによって、
権力に抵抗の形を見せた赤穂浪士。
理不尽さの中、命を散らした吉良家の人々。
そして襲われていた町人を守るために犬を斬ったばかりに、
浪々の身となり辻斬りにまで落ちぶれた内藤安之介。
仕官を願った吉良家から追い払われ、
しかも浪士のひとりの手にかかった内藤。
同じように時の不条理な権力の犠牲者でありながら、
あまりに立場が違い過ぎる皮肉。

内藤安之介の妻女・りえは内藤が職を辞した時には
三人目の赤子がまもなく出産を迎えようとする時だった。
浪々の身になって一年ほど経ったころ、
内藤が仕官を目指し出かけて、そして戻って来た半月ほど後、
・・・りえが殺される直前に月満ちて女の子を産み落とした。
・・・何度読み返しても帳尻が合わない。

ただ、父・武左衛門のわだかまりが解けた古沢右京之介が
一歩を踏み出そうとしているラストが救いです。
次は『天狗風』を。

「繰り返しますが、元禄とは、そういう時代でした。
長い戦国をくぐりぬけ、平和と冨が世にもたらされた、
その最初の時代だったわけです。
そういうときに、半ば忘れさられていたような、
武士道の忠義の道というものが取り沙汰される
ーしかも、戦というかたちではなく、主君のあだ討ちという形で、
いわば、見守る周囲の人々には、まったく火の粉のかからぬ形で。」
「そして、こんな不幸な茶番劇をせねばならぬところまで
両家が追い詰められたのは、
一にも二にも、当時の幕閣が、浅野殿を正気と認めたからでした。」
龍は眠る (新潮文庫)龍は眠る (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社
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天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)
宮部 みゆき
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『龍は眠る』レビューです⇒『龍は眠る』

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