『天狗風 霊験お初捕物控(二)』

神隠しと女の顔をした観音さま。
思いの籠められた小袖。
人間の言葉が判る猫たち。
宮部みゆき著『天狗風』
天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
by G-Tools



『震える岩』の続編をまたまた何年ぶりかの再々々々・・・読。

半月後に料理屋に縁付くはずだった下駄屋のひとり娘・おあき。
十日ほど前おあきは異様な朝焼けの突風の中で姿を消した。
しかし同心・倉田は縁談を快く思っていなかったおあきの父・政吉が
おあきを殺しこの話をでっち上げたと疑った。
倉田に責め立てられ政吉は罪を認め自ら命を絶ってしまった。
お初と右京之介は南町奉行・根岸肥前守にこの話を聞かされ、
桜の花に導かれるようにこの一件を探りはじめた。
そして今朝早く、八百屋の十三歳の娘・お律の姿が消えた。
朝焼けと突風の中で。


第一章『かどわかし』、第二章『消える人びと』、第三章『お初と鉄』、
第四章『武家娘』、第五章『対決』からなる本書。
『震える岩』から一年後の享和三年。
主人公・お初は十七になり
一膳飯屋・姉妹屋は夕方には居酒屋として賑わっている。
与力見習いだった古沢右京之介は、
奉行所のお役目を退き算学の道場に住み込んでいる。
お初には人に見えないものが見え、
聞こえないものが聞こえる。
その不思議な力のことをお初の兄・六蔵の下っ引き・文吉も
姉妹屋の板前・加吉も医師の源庵も薄々ながら知っている。

ふたりの娘をさらう観音さまの顔を持つ風。
この風を天狗と呼び、正体が女の妄念と最初に見破ったのは、
登場人物もとい登場猫たち。
(うろ覚えですずちゃんは白猫だと思い込んでいました。)
そして今回のメインゲスト(爆)の鉄(=^・・^=)。
小さなとら猫の鉄はお初と話ができる。
鉤先のしっぽに四足は足袋を履いたように白い。
結構毒舌で甘え上手、賢くて機転が利き悪戯心も持っている。
必要となれば化けてみせる。
お初と鉄のやりとりに猫が大の苦手の右京之介。
しかも"たった今満月が井戸端に降りてきて顔を洗っているのを見た"、
"満月がてぬぐいをさげて湯屋ののれんをくぐっていくのを見た"
ほとんどマンガ(苦笑)・・・で実際コミック化されています。

別に年頃の娘でなくとも男女の別なくとも姿形はやっぱり気になる。
見た目が良いに越したことが無いし、良くありたいと憧れる。
それは古今東西変わらない。
娘の分不相応な縁談に不安を抱く政吉。
両親の愛情がお律にだけ注がれていると拗ねる妹のお玉。
縁談が次々と壊れてしまった上に、
顔に火傷を負ってしまったしの。
不安、悪意、妬み、悲しみ・・・人の心の奥底にあるもの。
誰もが持っているもの。
この感情も時代や場所を問わない。

それにしても右京之介の父上・武左衛門。
いくら人となりが変わったと言っても赤鬼の古沢さま、
・・・キャラ変わり過ぎ(苦笑)。

和尚の顔がお初にお地蔵様に見えた時に、
錫杖を突くような音が聞こえた時に、
そして桜の森で鉄が銅鏡になった時に。
猫たちの正体は判ってくる。

真咲の最初の躓きは嫁いですぐ、姑が病み付き亡くなったこと。
でも真咲の嫁ぎ先が商家ではなく武家だったら、
同じことが起こらなかったのか。
意地悪な言い方をするならば
しのの母である真咲の姉が抱いた危惧に
美しい妹に対する嫉妬心はなかったのか。

しのの悲劇を思うとやりきれない。

ところで和尚を迎えに行ったお初と鉄。
桜の枝の上まで登っていった鉄に押され、
下でお初が袖を広げて待ち構えて受けとめた和尚。
奉行所からの帰りは・・・どうしたんでしょ?

「人の心ってものには、いろんな色が混じっているからな。
目出度いことのなかにも黒いものはあるし、
弔いごとのなかに喜びが隠れてるってこともある。」
「鬼神よりももののけよりも恐ろしいのは、人間の方だと。
都合の悪いこと、見たくないもの、
聞きたくないことを不思議話のなかに押し込めて、
自分にも世間にも嘘をつき通す。
人間ほど恐ろしいものはない。」
「万人の目に至上の美と映るものなど、この世にあるのでしょうか。
少なくとも、人間の顔立ちや姿かたちには至上の美などないと、
私には思えてなりません。
ですから、美というものは、あくまでもそれを見る心のなかにあるのでしょう。」
震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
by G-Tools

コメント

Secret

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

フリーエリア