「サラの鍵」

1942年7月16日。
アパートに封印された過去。
転がったりんご。
サラの鍵 [DVD]サラの鍵 [DVD]
クリスティン・スコット・トーマス メリュジーヌ・マヤンス
東宝
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札幌では本年1月から札幌シネマフロンティアで、
6月に蠍座で上映された作品です。
DVDにて。

2009年。
アメリカ人ジャーナリストのジュリア・ジャーモンドは
フランス人の夫と娘のゾーイと暮らしている。
2度の流産を経験していたジュリアは妊娠に気づくが、
夫から出産を反対される。
ナチス占領下のフランス警察によるユダヤ人一斉検挙を
ジュリアは雑誌の仕事でを担当することになるが、
夫の祖父母から譲り受けリフォーム中のアパートの住人が
「ヴェルディヴ事件」で検挙されたユダヤ人であること、
10歳の娘・サラが収容所から脱走していた事を知る。

1942年7月16日、
パリに暮らす10歳のサラ・スタルジンスキのアパートに
フランス警察が突然踏み込んで来る。
危険を感じたサラは弟・ミシェルを納戸に隠して鍵をかけ、
両親とともに連行される。
パリ中から集められたユダヤ人は屋内競輪場にすし詰めにされた挙句、
臨時収容所へ送られ、サラは両親とも引き離されてしまう。
サラは納戸の鍵を開け弟を出そうと収容所から脱走するが・・・。


ナチス占領下のフランスのヴィシー政権によって行われた
「ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件」、
通称「ヴェルディヴ事件」。
ユダヤ人迫害の最もおぞましき汚点として語られているそうですが、
「黄色い星の子供たち」の予告を観るまで(本編未見)、
この事件自体を全く知らなかったのでググってみたところ、
「ヴェル・ディヴ」「ヴェル・ディブ」「ベルディブ」など
表記も統一されていません。
(ちなみに本作も「黄色い星の子どもたち」も2010年作品。
ドイツがフランスに侵攻してから70周年にあたり、
自国の歴史を改めて振り返ろうとした作品も多かった様です。)
シラク大統領が1995年に(!)公式に認め謝罪するまで、
フランス国内でもあまり知られていなかったようで、
実際証拠写真もあまり残っていなければ、
舞台となったヴェロドローム・ディヴェールも取り壊されています。
「ヴェルディブ事件」に触れられたくない人々、
(特に)年配の世代の拒絶感が描かれるシーンが登場しますが、
負の歴史であり、また歴史の恥部でありまた汚点。
この反応は無理もないと思います。

母の警官への言葉で咄嗟に弟・ミシェルを守ろうとしたサラ。
息苦しい暑さの中で競技場に閉じ込められ、食物も水もなく、
トイレもない状態に置かれた人々。
若い女性が絶望から死を選ぶ。
臨時収容所に送られ両親とも引き離されたサラは
それでも納戸の鍵だけは手放さない。
パリに行かなければならない。
ミシェルを納戸から出さなければならない。

見張りの警官は素手で鉄条網を引き上げサラたちを逃がしてくれた。
小麦畑、森を抜けて辿り着いた村で
農場主の老夫婦はサラと一緒に逃げた少女のために医者を呼んでくれる。
警官の到着と前後して少女は死亡、
老夫婦は少女の死を悼み、サラを匿ってくれた。
老夫婦とパリに向かう車中では車掌が素知らぬをしてくれる。
違う一家が暮らすアパートに構わず入り、
一目散に納戸に行き鍵を開けるサラ・・・。

弟を助けるために必死だった彼女の心の糸は切れてしまった。
老夫婦もジュリアの夫の祖父も
せめてサラだけでも幸せになることを祈っていたはず。
あの日ミシェルがサラたちと一緒に連行されたとしても、
幼い弟は命を落としただろう。
サラを責められる人などいない。
でもサラは自分を責め続ける・・・納戸に閉じ込めなければと。

サラとジュリア。
時代も立場も違うふたりの女性の物語が同時進行していきます。
ジュリアがただのストーリーテラーでないことが
この物語に奥行きを与えていると思います。
記事にしようと考えていた「ヴェルディヴ事件」と、
夫の家族が思わぬ形で繋がりジュリアは取材にのめりこんで行く。
夫に新たな子どもを持つことを拒否されたジュリアが、
今の家庭と宿った命を天秤にかけなければならない。

老夫婦の養女として成長したサラがアメリカに渡ったのは、
悲劇の過去と決別するためかもしれない。
でも人生の伴侶も新しい命もサラを救ってはくれなかった。
ただジュリアとサラの息子・ウィリアムとの対面は、
彼が何も知らないとはジュリアは思っていなかったとはいえ
傲慢な印象も。
・・・選択を迫られていたジュリアも
冷静ではいられなかったということなのでしょうけれど。

母のファミリーネームさえ知らなかったウィリアムが、
父(サラの夫)から聞かされた真実とサラの想い。
そしてさらに時が過ぎ・・・このラストが温かい。

「いつもと同じかくれんぼよ。」
「私はサラ・スタルジンスキ。」
「真実を知るには代償がいるの。」
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