「オレンジと太陽」

子どもたちはオーストラリアに渡った。
13万人の子どもたちが。
からのゆりかご―大英帝国の迷い子たちからのゆりかご―大英帝国の迷い子たち
(「オレンジと太陽」原作)

マーガレット ハンフリーズ 都留 信夫
近代文藝社
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ケン・ローチの息子、ジム・ローチの映画デビュー作。
シアターキノA館にて。

1986年、英国ノッティンガム。
ソーシャルワーカーのマーガレット・ハンフリーズは
ある夜、マーガレットは見知らぬ女性シャーロットから
「自分が誰なのかを知りたい」と訴えられる。
シャーロットはノッティンガムの児童養護施設にいた4歳の時に、
数百人の子どもたちと一緒に船に乗せられ、
オーストラリアに送られたという。
保護者の付き添いなしにありえないと取り合わない彼女だったが、
後日養子としてもらわれ育った人たちの集まりの席で、
ニッキーから最近再会した弟・ジャックの話を聞く。
ジャックも幼い頃にオーストラリアへ連れて行かれ、
ニッキーの居所をようやく探し出して手紙を送ってきたと言う。
マーガレットは調査を開始、
シャーロットが死んだと聞かされていた母がまだ生きていると知り、
会いに行くが娘はイギリスの養父母にもらわれたと聞いていた彼女は
娘がオーストラリアに送られたことなど全く知らなかった。
ジャックから直接話を聞くために、
マーガレットはニッキーとオーストラリアへ向かう。


ソーシャルワーカーという言葉が定着している中で、
社会福祉士と置き換えたのは字幕の文字数の制約でしょうか。
公式サイトではソーシャルワーカーですが。

「サラの鍵」で『ヴェルディヴ事件』に唖然としたのですが、
埋もれている近代史というのはまだあるのですね。
以前観た「裸足の1500マイル」での
アボリジニと白人の混血児をアボリジニの親から引き離して、
白人の子として育てる隔離政策にも言葉がなかったけれど、
1970年代まで続いていた(!)この政策も惨い。
親は死んだと嘘を言って・・・騙してまで、
子どもたちをオーストラリアに送り込む。
移民とは名ばかりの棄民・・・それどころか奴隷。

子どもたちを待っていたのは過酷な環境の労働、暴力、性的虐待。
学校に行くことなどもちろん望めない。
衣類も靴も一組だけ、満足に食事も与えられず、
それさえも借金とみなされ大人になったら返さなければならない
夫となり父となったジャックが自分に自信が持てないことも、
社会的に成功しているレンがマーガレットに突っかかるのも、
そんな日々が原因だった。
信じてくれる?信じてくれるか?と何度も聞かれるマーガレット。
子どもたちがよしんば逃げ出しても教会がまさか、神父がまさかと
言われ続けてきたのでしょう。
教会の受付の女性がマーガレットに言ったように。
信者が家に押しかけて脅迫するように。

被害者の痛みや苦しみに呼応するマーガレットは
そうとう過呼吸になり髪は抜け起き上がるのもやっとに。
心身のバランスを崩したマーガレットを救ったのは
家族・・・夫の支えとシャーロット母娘の幸せそうな様子。
一方でクリスマスのパーティーで
ニッキーにクリスマスプレゼントを聞かれたマーガレットの息子が、
"(あなたたちに)ママをあげたよ"と言ったのが切なかったです。

大人になった(或いは生き残った)、
でも心身に傷を負ったままの児童移民の人々は
マーガレットのお母さん的な雰囲気を漂わせる誠実な人柄を慕い、
笑顔を取り戻していく。
この役はエミリー・ワトソンしか考えられないかも。

船を降りた子どもたちは泣きじゃくっていたとレンは言うのに、
エンドクレジットに出てきた映像の子どもたちは
精一杯おめかしをして笑顔で映っている。
児童福祉局にも記録がない(隠している?)と言いながら。
児童移民を正当化したいという意図がここにも見えます。

ハンフリーズ夫妻の調査は今も続いているそうです。
大人になった彼らが家族に会うことが出来ますように、
祈らずにはいられません。

「彼らは自分が誰か知りたいだけなんです。」
「あなたが失ったものを私は返せない。」
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コメント

こんばんは。
トラバありがとうございました。
全く知らなかった英国の歴史のひとつを映画によって学ぶことができただけでも大収穫でした。

子供たちが長じて施設を出ても、それまでの養育費を「借金」として払い続けなければならない・・・という話では、ひどく憤りを感じてしまいました。
そんな勝手な理論があっていいものでしょうか。
私生児に人権などない・・・とでも言うようなこの仕打。
歴史の暗部ですね。

にこさんへ。
2009年にはオーストラリアの首相が、
2010年にはイギリスの首相が正式な謝罪を行ったことで
世界的なニュースとなったそうなのですが、
私は全く記憶にないんですよね。
日本が直接的に関係がなかったからかもしれませんが。
子どもたちはオーストラリアだけではなく、
カナダ、ニュージーランド、ジンバブエへも移送されたそうです。
何よりこの政策がごく最近まで行われていたこと自体が驚きですね。

たんぽぽさんへ。
衣類も食事もろくに与えず炎天下で大人と同じように働かせながら、
養育費も何もないはず。
貧困や家庭の事情で養護施設にいた子どもたちを・・・。
シャーロットがマーガレットに出会わなければ、
この事実はまだ隠されたままだったかもしれませんね。
Secret

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