『ばんば憑き』

老女の語る昔話。
十三夜の月明かりの影踏み。
宮部みゆき著『ばんば憑き』
ばんば憑き (新人物ノベルス)ばんば憑き (新人物ノベルス)
宮部 みゆき
新人物往来社
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箱根への湯治からの帰途の保土ヶ谷、
伊勢屋の若夫婦・佐一郎とお志津は雨に降り込められた宿で、
増井屋の隠居という老女と相部屋を頼まれる。
相部屋が気に入らないお志津をよそに、
佐一郎はお松と名乗る老女の世話を焼くが、
それがまた気に障るお志津は酒を飲み厭味を言った挙句、
分家からの入り婿の佐一郎と彼の実家を蔑む言葉まで吐く。
お志津が酔い潰れた寝てしまった後、、
泣き声に気づいた佐一郎が声をかけると、
お松は五十年前の忌まわしい出来事を語り出す。(『ばんば衝き』)


『坊主の壺』『お文(ふみ)の影』『博打眼(ばくちがん)』
『討債鬼(とうさいき)』『ばんば憑き』『野槌(のづち)の墓』
6編からなる 時代物短編集はホラーというよりは怪談系。
怖くて悲しくて哀れで痛々しくてちょっとユーモラスで、
でも優しく温かい。
如何にも宮部みゆきらしい作品です。
読み進めている内に三島屋の白黒の間でおちかの隣に座り、
一緒に話を聞いているような感覚になっていたら、
手習所「深考塾」の雇われ講師・青野利一郎と行然坊登場。
青野利一郎って意外と重たい過去を背負っていたんですねぇ。
いえ、他意はないです、はい(苦笑)。

一番怖いのは表題作の『ばんば衝き』。
"ばんば"は恨みの念を抱いた亡者のこと。
自分が仕えていた八重が彼女の許婚に横恋慕したお由に殺さた。
これだけでも十分怖いのに、
そこからの話は閉ざされた世界での異常な出来事。
何と言い含められようとこんなことを許婚が良く承知したものだと、
これはこれで不思議だったのですが、
ある種の集団心理のなせることなのでしょうね。
それにしてもお松の話がやけに具体的と思ったら・・・。
そして聞き手の佐一郎もこの一夜で
お志津の意外な一面を見てしまい何より本音を聞いてしまった。
酔いが醒めたお志津は何を言ったか覚えていないかもしれないけれど、
佐一郎は伊勢屋で生きていくしかない。
でも何だかやり切れなくて。

"真っ黒けのでっかい蒲団に目玉がいっぱい生えている"『博打眼』に、
"訛りがきつい八幡様の狛犬"と絵的に相当ユーモラスでインパクト強。
冒頭の加奈の「父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか。」に
爆笑してしまった『野槌の墓』。
日本には例えば針やはさみや包丁など、
古くから道具を供養する習慣があります。
それぞれの道具を使う人が壊れて使えなくなった道具を
そのまま捨てずにお寺や神社で供養して感謝する。
木槌も供養されていれば"物の怪"などにはならなかったのですが、
大体供養する心がある人は木槌をこんな酷いことには決して使わない。
『博打眼』も謂れが判ると笑ってばかりもいられない。

好き・・・と言うには語弊がありますが、
一番印象に残ったのが『お文の影』。
惨い仕打ちを受けた怒りや悲しみがさらに弱いものに向けられる。
弔われたもの、遺されたもの。
無事に船が着きますように。
どうか出会えますように。
さあ爺の人形でふたりで遊べますように。

「いずれ、このさあ爺も行くからなぁ。
そしたら、また紙人形を作ってやる。
着せ替えの衣装も作ってやる。
だから、それまで、いい子で遊んで待っててくれろぅ。」

オーディオブック「ばんば憑き」朗読-中嶋朋子
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コメント

怖さが蘇ってきました。
そうそう「博打眼」も恐ろしかったです。
つまりは、人間の怖さなんですけどね。

こにさん、
自分の意思に関係なく背負ってしまった、背負わされてしまった人たちの物語ですね。
坊主の壺』なんて見えてしまったらもう逃げ場がないし。
ただ、元を正せば人間の業。
>つまりは、人間の怖さなんですけどね。
傷つけられるのも人間、悼み、救うのもまた人間・・・。
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宮部みゆき 「ばんば憑き」

202.217.72.802011年3月17日読了。
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