『初ものがたり』

藪入りの土左衛門。
新しい小袖。
醤油売りのてんびん棒。
宮部みゆき著『初ものがたり』
初ものがたり (新潮文庫)初ものがたり (新潮文庫)
宮部みゆき
新潮社
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新年一月十六日薮入りの日、
大川端に女の土左衛門が引き上げられた。
岡っ引きの回向院の茂七は裸だったことに引っかかりながらも、
女の右肩の胼胝(タコ)から担ぎの醤油売りのお勢だと突き止める。
ところがお勢が住む源兵衛店の差配人は茂七たちに、
お勢がひとりで死ぬはずはないと言い切る。
ところが差配人がいうお勢が入れあげていた相手、
問屋・野崎屋の手代の音次郎は今朝早立ちして
川崎の母親の元に帰っているという。
源兵衛店のお勢の部屋を調べた茂七と下っ引きの権三は
お勢の向かいに住む新内節の師匠から、
昨日の夕方六ツ(午後六時)にお勢が帰ってきたのを見たと聞く。

(『お勢殺し』)

『お勢殺し』『白魚の目』『鰹千両』『太郎柿次郎柿』
『凍る月』『遺恨の桜』からなる短編集は
『本所深川ふしぎ草紙』の回向院の茂七を主役に据えた一作。
『本所ー』から五年経ち茂七は五十五になっている。
下っ引きの文次は二年ほど前に小商いの店の婿になり、
茂七の下には今、糸吉、権三というふたりの下っ引きがいる。
権三は酒問屋の番頭あがりという経歴と年齢故、
お勢の年齢の見当を付けたりと目線が糸吉とは違う。

大店の奉公人に長屋住まいのその日暮らしの人々、
そして親のない子たち。
茂七も含め描かれるのは庶民の暮らし。
その日暮らしと無縁の大店の人々にも大店なりの日々がある。
もの悲しいくまた哀れな話ばかりですが、
『白魚の目』が一番やり切れませんでした。
悲しい哉、今でもありそうな話。
おゆうを座敷牢にでも押し込めるしか手がないのでしょうけれど、
"半年"とケロリとして言う周囲がまた怖いというか不気味。

蕪汁(かぶらじる)とすいとん、白魚蒲鉾、鰹、柿羊羹に新巻鮭、
小田巻き蒸し(美味しいと思ったことはないけれど)、
菜飯に鰆に桜餅まで。
現代では薄れてしまった食べ物の旬は
江戸の季節の移り変わりを伝えていく。
武家上がりの稲荷寿司の屋台の親父が作る「初もの」の数々。
・・・白魚蒲鉾はどんな食感なんでしょうねぇ。

諸般の事情でいまだに続編が書かれていないで
稲荷寿司の屋台の親父と地元の侠客・梶屋の勝蔵との関係、
両親に拝み屋に仕立てられた日道こと長助と
その後は謎のままなのが何とも残念。

「……ごめんしてね、ごめんしてね。」
"隣のお稲荷さんと違って、この地蔵堂を怖がる者はいない。
だが、風の強い夜など、ここから子供の笑い声が聞こえると、
噂しあう者はいるそうだ。"(『白魚の目』)
本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)
宮部 みゆき
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