「東ベルリンから来た女」

左遷先での生活。
ラタトゥユ。
土曜日の夜。
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東ベルリンからの亡命ではなく、来た女性の物語。
サスペンスでありヒューマンドラマでした。
シアターキノA館にて。

1980年夏〜ベルリンの壁崩壊の9年前。
病院前のバス停に女性がひとり降り立ったのを、
病院の窓からふたりの男が彼女を見下ろしていた。
バルバラは東ベルリンの大病院の女医だったが、
この地方都市の病院の小児外科勤務になったのだ。
帰りのバスを待つバルバラを上司・アンドレが車で送るが、
彼は何故か彼女の自宅の場所を知っていた。
自転車で通勤するようになったバルバラは、
列車で別の町のレストランに向かうが、
帰宅を待っていたのはシュタージ(秘密警察)だった。


バルバラとヨルクはどこで知り合ったのか・・・という以前に
東から西への移住申請が認められるのか?と不思議だったのですが、
公式サイトを見ると、
"満65歳以上の年金生活者は東ドイツ政府に移民申請をすれば
西ドイツに移住できた(年金支払いが減るため)。"

また"政治犯や反社会的人物は西ドイツが買い取る形
(政治犯一人当たりの買収価格は約700万円とも言われた)で
移住することも可能だった。
若い女性は外国人との結婚により国外へ移住するケースもあった。"

・・・東ドイツ政府にとって年金生活者の移民は棄民ですし、
政治犯は厄介払い&金のなる木。
ただバルバラは医者という知識層だからこそ認められず、
そして・・・ということらしい。
大体、公式サイトを見るまでベルリンの壁は
東西ドイツの間にあったのだと思い込んでいました・・・無知(=_=;

監督・脚本は2007年に観た「善き人のためのソナタ」の
クリスティアン・ペッツォルト。
「善き人」が監視する側なら、これは監視される側の物語。
バルバラが弾くピアノ以外はBGMもなく(!)、
聞こえるのは靴音と自動車が止まる音、ドアをノックする音。
家宅捜索と屈辱。
監視下の緊張で神経をすり減らすバルバラの心を
医者としてのプライドが繋ぎ止めていく。
そして彼女は同じ医者としてアンドレの姿に接していく。
古びた、そして十分とは言えない設備の中で
アンドレは血清まで作っている。
どの患者にも分け隔てなく・・・シュタージの妻にまでも。

荒れた暗い海の向こうに豊かさと自由がある。
でもバルバラは決断を後悔しないと思う。
また拘束されるのかもしれないけれど。
取調べを受けるのかもしれないけれど。
女性として、医師として。

拙レビューです⇒「善き人のためのソナタ」
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コメント

こんばんは。
互いの国の思想の違いに重きを置くのではなく
その中で生きる<個性>を描いたのがよかったです。
あれだけ、自分を強く律し、妥協しないヒロインでも、
恋人の前では、ひとりの<女>に戻る。
その嘘のなさが血脈として流れ、
映画に命を与えていた気がします。

これは私は今年のベストに入れると思います。
これだけ語らない感じの映像なのに、いろいろ語られている作風ってなかなかないです。
お見事でした。

えいさんへ、
バルバラの日々を描き、内面の変化を描くことで
体制や社会を浮かび上がらせていく手腕は見事ですね。
>恋人の前では、ひとりの<女>に戻る。
その恋人がもう少し人間的に魅力のある人だったなら・・・と
思わなくもないのですが(苦笑)。
最初から最後まで静かな緊張感に包まれた目が離せない映画でした。

rose_chocolatさんへ、
こういう作品に出会えて嬉しいです。
>これだけ語らない感じの映像なのに、いろいろ語られている作風ってなかなかないです。
おっしゃるとおりだと思います。
回想シーンを織り込むこともなく、余計な説明もない。
でもバルバラの置かれた状況や緊迫感や、
彼女やアンドレ、ステラの心情が伝わってくる。
本当にお見事な映画でした。

こんばんは。
ベルリンの壁・・・。
実は私も、ベルリンの位置をきちんと把握しておりませんでした。つまりは東ドイツの真ん中に飛び地のように西ベルリンがあったんですね。なんて理不尽な壁であったことか・・・。私、その頃にも立派なオトナとして生活していたのに、そんなこともわかっていなかったなんて、と、愕然としてしまいました。
今作、バルバラの気持ちが決まったのは恋人が「西に来たら仕事はしなくていい」といった時なのではないかと思うのですがいかがでしょう。
バルバラの選択は私には大いに納得できてしまいます。あと、9年待てば壁もなくなりますしね・・・。

たんぽぽさんへ、
・・・ベルリンの壁(=_=;
>私、その頃にも立派なオトナとして生活していたのに、そんなこともわかっていなかったなんて、と、愕然としてしまいました。
同じです(^_^;
公式サイトを見るまで西ベルリンが東ドイツの中にあったなんて、
全く存じませんでした。
>バルバラの気持ちが決まったのは恋人が「西に来たら仕事はしなくていい」といった時なのではないかと思うのですがいかがでしょう。
車にカタログを見る女の子と東西ドイツの貧富の差が何度も表現されていましたね。
私はステラが現れなければ決行したと思います。
ただ、彼女の望む人生を送れたかどうかはかなり怪しいとは思います。
ラスト、椅子に座ったバルバラの表情が良かったですね。
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