『日暮らし』

生き別れになった母はどんなところに住んで、どんな様子でいるのか。
その母は、息子が会った時には息絶えていた・・・。
宮部みゆき著『日暮らし』
新装版 日暮らし(上) (講談社文庫)新装版 日暮らし(上) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
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夏の暑い盛り、町医者の幸庵が
八丁堀本所深川方の定町廻りの井筒平四郎の家を訪ねてきた。
本所本町の岡っ引の政五郎の手下(てか)のおでここと三太郎が、
飯も食わずに寝ついていると言う。
おでこは気の病だという幸庵は平四郎に
おでこの悩みを探索するよう要請する。
政五郎の妻・お紺の蕎麦屋に出向いた平四郎が、
おでこが五歳で政五郎に引き取られたいきさつなど聞いている時、
中間の小平次が、似顔絵扇子で今評判の絵師・秀明が、
深川の船宿で殺されたと知らせに走ってきた。(『おまんま』)


『おまんま』『嫌いの虫』『子盗り鬼』『なけなし三昧』『日暮らし』
『鬼は外、福は内』からなる本作は、
前作の『ぼんくら』同様、章ごとに異なる話が並び進んでいき、
表題作『日暮らし』がメインという構成。
井筒平四郎と政五郎、おでこと皆さんお変わりなく、
・・・あっという間に『ぼんくら』ワールド。
ところが『嫌いの虫』で・・・お恵って誰?
佐吉?・・・鉄瓶長屋!?・・・あー、あの佐吉なのねぇ
・・・何ともぼんくらな読者でございます(-。-;
官九郎はこの頃から佐吉の傍にいて、お恵との神だったのねぇ。
所帯を持って半年の若夫婦の初めての倦怠期(?)すれ違い。
お恵が様子のおかしい佐吉を心配するのも当たり前なら、
佐吉の態度に不審を抱くのも当たり前。
でも佐吉と同じシチュエーションにぶつかったら、
誰だって気持ちがあさってになってしまうでしょうねぇ。
・・・というところに現れる弓之助の名調子(苦笑)。
うん、『ぼんくら』ワールド。

井筒平四郎と奥方の、政五郎の、おでこの、佐吉の、
弓之助の、お徳の・・・『ぼんくら』の登場人物のその後。
弓之助の従姉・とおよ、お徳と同じ幸兵衛長屋でお菜屋を始め、
ふたりの雇い人を残して姿を消したおみね、
料理屋・石和屋の庖丁人の彦一、湊屋総右衛門の息子・宗一郎らが
物語を紡いでいく。
何より初めて姿を現した生身の葵は
実は明るくしっかり者で機転が利いて慈悲深い女主人。
そして佐吉を手放したことを後ろめたく思う母の一面・・・。
この葵とお六の『子盗り鬼』が一番印象に残りました。

桔梗の着物。
連枝薫の香り。
十五年前の罪。
葵を手に掛けたのが誰かは早い段階で察しが付くけれど、
でも私もまた幻でも何でも葵の姿を佐吉に見せたいと思いました。
ただ・・・弓之助の言うとおりなんですよね。
ずっと騙られてきた佐吉を幻で騙ってはいけない。
たぶらかしてはいけない。
佐吉にだけは・・・。

相変わらず湊屋総右衛門は腹の底が見えないけれど、
この御仁は何故かしら井筒平四郎を信頼しているらしく、
与兵衛、影番頭に加えて3トップにしかねない買いっぷり(汗)。
・・・まあ、弓之助がいるから心配ないか(苦笑)。

葵殺しの顛末、宗一郎、仕出し屋を始めたお徳、
おとよの嫁入り、平四郎が入れ上げた芸人と、
『鬼は外、福は内』でしっかりオチも付く。
それにしてもおとよが石和屋で食べたと言う
"ほんのり甘くて、雲みたいにふわふわしている、
生麩に麩を乾かして細かく砕いた衣をつけた揚げ物"。
・・・私も食べてみたいです、お徳さん(苦笑)。

「そうだね。おまえより、ずっとよく知ってると思うよ。
・・・世間に潜んでいる鬼の怖さみたいなものをね。」
”その人の笑顔を見たい。その人と一緒にいたい。
その人が困っていたら助けてやりたい。
惚れるというのは、そういうことであるはずなのに”
”一日、一日、積み上げるように。
てめえで進んでいかないと。おまんまをいただいてさ。
みんなそうやって日暮らしだ。
積み上げてゆくだけなんだから、それはとても易しいことのはずなのに、
ときどき、間違いが起こるのは何故だろう。
自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。
崩したものを、元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう。”
新装版 日暮らし(下) (講談社文庫)新装版 日暮らし(下) (講談社文庫)
宮部 みゆき
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