『小さいおうち』

赤い三角屋根の家。
憧れ、思い出・・・秘密。
中島京子著『小さいおうち』
小さいおうち (文春文庫)小さいおうち (文春文庫)
中島 京子
文藝春秋
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映画を見た後、何か消化不良で、
原作を・・・と思ったまま積読状態だったのですが、
疲れ過ぎるて眠れない時に開いてみると、
・・・まさかの一気読み(=_=;

以前『タキおばあちゃんのスーパー家事ブック』を出版したタキを
若い女性編集者が次の本の打ち合わせのためにと
タキの茨城の1LDKのマンションを訪れる。
話すことを全部テープにとって欲しいと言うタキに、
書くことが決まってからと編集者は譲らない。

タキは東京で女中奉公をしていた時代のことを
ノートに書き出し始める。
山形の農村の六人兄弟の五番目に生まれたタキは、
昭和5年(1930年)に尋常小学校を卒業後、
上の兄弟たちと同じように奉公に出る。
昭和の初め、女中奉公は嫁入り前の花嫁修業だった。
親戚の伝手で東京の小説家の小中先生の家に上がったタキは、
翌年、幼い子どもがいて手が掛かるとして、
小中先生の知り合いの浅野家の女中として入ることになり、
22歳の時子と1歳半の恭一に出会う。
時子は14歳のタキに料理や東京風の話し方を教え、
また銀座で洋食を食べさせたりする。
銘仙のお下がりを惜しげもなくタキにくれる時子は、
しかし決して幸せとは言えない結婚生活だったが、
それは夫の事故死であっけなく終わり、
時子は恭一とタキを連れ一旦実家に戻る。
昭和7年(1932年)の暮れ、
時子は10歳年上で初婚の平井に子連れ、女中連れで嫁ぐ。
そして三年後の昭和10年(1935年)、
東京の郊外に赤い瓦屋根の二階建ての洋館が建った。
階段の裏の2畳の部屋を自分の部屋としてあてがわれたタキは
洋館を「終の棲家」と思い定める。


何せ昭和初期についての知識が著しく不足しているもので、
(銘仙、ス・フ、ポーラetc.いちいち調べました)、
当時の東京の華やかさや賑やかさ、
人々の暮らしやファッションを想像するのは難しく、
その意味では映画に助けられました。
黒木華の銀熊賞受賞が話題の作品ですが、
個人的には断然原作であるこちらの方が好きです。
タキが見、感じ、経験したこと、そして平井家の人々・・・、
そして当時の暮らしぶりや軍靴の足音も聞こえてくる。

ただ、中流(?上流?)家庭とはいえ、
オムレツにコロッケに伊勢えびサラダ。
端午の節句のお祝いの席とはいえ、
昭和12年にこれだけのメニューが並んだのは驚きでした。
"ケチャップで甘くしたハムライスをゼリー型に詰めてお皿にぬいて
グリンピースやコーンで飾ったお子様ランチ風の飾りつけが
好評を博した"と懐かしく思うタキ。
時子が描いた中原淳一のようなスタイル画と作った型紙を元に、
時子に習ったミシンで洋服を仕立て、
何せモデルが良いからと微笑むタキ。
近所の奥様方がタキを褒めると自慢げに目を細められる時子を見て、
自惚れをくすぐられるタキ。
戦局の悪化に従っての貴金属の供出命令に食料事情の悪化はあれど、
赤い屋根の家でのタキの生活は明るく楽しく何より幸せなもの。
そんなタキが仕え、タキの全てだった時子も恭一に言わせれば
「母は少し困った人でした。
(中略)
いつもどこかでアンバランスで、あぶなっかしくて。
誰かの庇護が必要な人だった。」と。

健史に読まれることを承知で、むしろ意識して書いていた覚え書きに、
健史がくどいほど"嘘を書いちゃだめだ"と言う中でのタキの嘘。
イタクラ・ショージが世に出た時、
あの板倉だと知った時にタキは何を思ったのでしょう。

・・・と突然、睦子の言葉を思い出しました。
睦子が(おそらくはあえて)言わなかった一節を。
タキにいい縁談がなかったのは
タキが言うように"本人にやる気がなかったから"では
ないのではないかと。
タキが時子に手紙を渡さなかったのは、
赤い屋根の家庭を守るためではなかったのではないかと。
・・・と思ってしまったおかげでちょっと睡眠不足(~_ヘ)

「気が付くと、いろんなことが変わっていた。
一つところへそんなに長くご奉公できた女中もそうはいないだろうし、
なにしろ平井家は、わたしのすべてだった。」
"あのとき、睦子さんは、何を言おうとしていたのだろう。
睦子さんには、何がわかっていたのだろう。"
ちいさいおうちちいさいおうち
バージニア・リー・バートン
岩波書店
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映画「小さいおうち」レビューです。⇒「小さいおうち」

テーマ : 最近読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

tag : ちいさいおうち 中島京子 黒木華 銘仙 ス・フ ポーラ

コメント

sannkenekoさん、こんにちは^^
そうですか、まだまだ雪が残っているんですね?
東京は早咲きの桜が見頃となってきました。
僕は原作から入り、映画を観たのですが、
映像にすると妙に生々しい部分もあって、
確かに違和感を感じる部分もありました。
タキちゃんは華ちゃんで雰囲気が合っていた
ように感じました!

cyazさんへ、
>映像にすると妙に生々しい部分もあって、
確かに違和感を感じる部分もありました。
時子と板倉の関係をメインにしてしまったのが間違いのような気がします。
黒木華は「リーハイ」でしか知らなかったのですが、
小説のタキよりは儚げな感じでしたね。
今週に入ってから雪解けは進みましたが、
表通りから一本裏では歩道に雪が山積みです。
北海道で桜が見られるのはGWになってからですね。
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